「イラン情勢で日本の電気代はどうなる?太陽光・蓄電池が最強の備えになる理由」を公開した5月20日から、状況はさらに激しく動いています。
6月19日に米イランの戦闘終結に向けた覚書が署名されたものの、ホルムズ海峡の完全再開をめぐる詳細協議は難航が続いており、イランは「レバノン全戦線での停戦」を前提条件に掲げてホルムズ再封鎖を示唆しています。
現在も停戦延長とホルムズ開放を軸とした最終協議が続いている状況です。
前編では「太陽光+蓄電池=最強の備え」と結論付けました。本記事では「建材一体型太陽電池(BIPV)」という次世代技術を紹介し、エネルギー危機へのもう一つの防衛線を提案します。
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ホルムズ海峡封鎖の現実
2026年2月28日、イラン革命防衛隊とイスラエル軍の衝突が勃発しました。3月にはイランがホルムズ海峡の管理権を主張して航行制限を開始し、米海軍も対イラン臨検態勢を敷きました。この「二重封鎖」状態は開戦から約4か月が経過した今も、完全には解消されていません。
平時は世界の原油の約20%、LNGの約20%がこの海峡を通過しますが、現在も商業タンカーの多くが航行を回避しています。船舶保険料の高騰と迂回ルート選択による海運コストの上乗せという状況は、停戦交渉が進展してもすぐに解消されるものではありません。
日本の原油輸入の約95%は中東産で、そのうちホルムズ海峡経由は約90%に達します。
「ホルムズ海峡→原油高騰→火力発電コスト上昇→電気代高騰」というメカニズムは、開戦から100日以上が経過した今も構造的に変わっていないのです。

原油・LNG・電気代の今
電気代に大きく影響する原油とLNG(液化天然ガス)の価格動向について説明します。
電気代はこうなる
電気代は以下の複合要因により、さらなる増加が見込まれます。
- 燃料費調整額の上昇(原油・LNG高騰を反映)
- 再エネ賦課金の上昇:2026年5月〜 4.18円/kWh(前年比約5%増)
- 容量市場拠出金の上乗せ
- 市場連動型プランの場合、JEPX価格に直結しスパイクリスクあり


原油・LNG価格の推移
3月のピーク時にブレント原油は1バレル126ドルを突破しましたが、米イラン停戦交渉の進展を受けて6月中旬以降は急落しています。
6月19日のスイスでの覚書署名報道を受けて一時80ドルを下回り、本稿執筆時点(6月25日)では80ドル台で推移しています。ただし、交渉の一部で溝が残っていることから、上下に振れやすい不安定な状態が続いています。
LNG(アジアスポット価格・JKM)は1月の11.49ドル/百万BTUから3月には22ドル台に急騰しました。6月初旬時点では18〜19ドル台に落ち着いてきています。ホルムズ海峡経由のLNGは日本の輸入量の約6%に過ぎませんが、グローバル市場の価格は地政学リスクに連動して上昇しています。
| 指標 | 1〜2月(開戦前後) | 3月(ピーク) | 6月現在 |
| ブレント原油 | $60台 | $120台 | $80台 (交渉進展で急落) |
| ドバイ原油 | $60台 | $130超 | $80台 |
| LNG(JKM) | $11.5台 | $22台 | $18〜19台 |
JEPXの昼夜の価格差
JEPX電力市場では「昼安・夜高」の格差がさらに拡大しています。
東京エリアにおいて、日中の太陽光出力ピーク時には0.01円/kWhまで下落する一方、夕方のピーク時には40円超、スパイク時には60円/kWhを記録しています(2025年度平均スポット単価は12.45円/kWh)
完全市場連動型プランを契約している場合は、JEPX価格に直結するため、スパイク時に電気代が跳ね上がるリスクがある点に注意が必要です。
政府の3.11兆円補正予算の意味

政府は3月に約45日分、5月に約20日分の石油備蓄を放出しました。
安全保障上の観点から、5月末以降は追加放出しない方針を示しています。
6月に成立した補正予算3.11兆円の内訳は以下のとおりです。
| 項目 | 予算額 | 内容 |
| 中東情勢等対応予備費 | 2.5兆円 | ガソリン補助等 |
| 一般予備費 | 5,135億円 | 電気・都市ガスの7〜9月の補助等 |
| 重点支援地方交付金 | 1,000億円 | LPガスの補助等 |
電気・都市ガス補助金は7〜9月の酷暑期限定であり、10月以降は再び自己負担に戻ります。
| 項目 | 2026年7・9月使用分 | 2026年8月使用分 |
| 電気(低圧) | 3.5円/kWh | 4.5円/kWh |
| 電気(高圧) | 1.8円/kWh | 2.3円/kWh |
| 都市ガス | 14.0円/㎥ | 18.0円/㎥ |
(参照)電気・ガス料金支援
火力発電比率は依然として約67〜70%、輸入化石燃料依存度は80%超という状況が続いています。政府の対応はあくまで「痛み止め」にすぎず、構造を変えなければ次の危機でも同じことが繰り返されてしまいます。

電気代はいつ下がる?2つのシナリオ

電気代の高騰はこのまま続くのでしょうか?
考えられる2つのシナリオを解説します。
シナリオA:短期沈静化
2026年後半に停戦・海峡の正式再開が実現した場合、原油は70〜80ドル台に段階的に回帰し、電気料金は2027年度にかけて緩やかに低下する可能性があります。
EIA(米国エネルギー情報局)は、ホルムズ海峡の船舶流入が徐々に再開した場合、2027年にはブレント原油が1バレル平均79ドルまで下落すると予測しています。
ただし、一度高まった地政学的リスクプレミアムは簡単には解消されず、危機前の水準に戻ることは難しいでしょう。
シナリオB:長期化
詳細協議が決裂し海峡封鎖が再燃した場合、エネルギーコストは高止まりが続きます。
経費増による企業収益の圧迫、実質賃金の低下、個人消費の冷え込みという悪循環が懸念されます。
ゴールドマン・サックスは、封鎖が10週間以上継続すれば原油価格が2008年記録の147ドルを超える可能性があることを指摘しています。
どちらでも変わらない事実
どちらのシナリオでも、火力発電依存という構造が変わらない限り、次の危機で同じことが起きます。ホルムズ海峡だけでなく、台湾海峡・南シナ海にも地政学リスクは存在しています。
EUは「AccelerateEU」を発表し、域内産クリーンエネルギーへの転換と電化加速を、単なる「環境政策」ではなく「国家安全保障戦略」として位置づけました。
電気代がいつ下がるかを待つのではなく、化石燃料に依存する構造そのものを変えることが求められているのです。前編の「太陽光+蓄電池」はその第一歩です。

エネルギー転換には屋根だけでは足りない!BIPVの重要性
前編の結論は、「作って・貯めて・自分たちで使う(自家消費)」というサイクルを自前で構築することでした。しかし、屋根だけではエネルギー自給率を十分に高められないケースが多くあります。
- 都市部の高層ビルは屋上面積に対してフロア数が多く、発電量が需要量に届かない
- 工場は屋根の荷重制限で従来型シリコンパネルを載せられないケースが少なくない
- 集合住宅では屋上が共用部のため、個人の判断では設置できない
一方で、ビルの外壁面積は屋根面積の数倍あり、窓ガラスを含めればさらに広がります。この「使われていない巨大な発電用地」を活用する技術が、いま日本で急速に実用化されつつあります。
それが、建材一体型太陽電池(BIPV)です。
BIPV|建物まるごとが「発電所」になる

BIPV(Building-Integrated Photovoltaics)とは、屋根・壁・窓などの建材自体に発電機能を組み込む概念です。従来の「後付け型(BAPV)」とは異なり、設計段階から建物と太陽電池を統合する点が最大の特徴といえます。
| BIPVの種類 | 特徴 | 適用技術 |
| 屋根材一体型 | 屋根材そのものが発電 | ペロブスカイト(フィルム型) |
| 壁面(ファサード)型 | 外壁と一体化 | CIGS、ペロブスカイト |
| 窓ガラス一体型 | 半透明で採光+発電 | ペロブスカイト(ガラス型) |
| 遮光型(庇・ルーバー) | 日射遮蔽+発電 | CIGS、ペロブスカイト |
ペロブスカイト太陽電池|日本発の「ゲームチェンジャー」

ペロブスカイト太陽電池は日本の研究者が発明した技術で、フィルム型(超軽量・曲面追従)とガラス型(半透明・窓一体化)の2タイプがあります。
シリコンパネルの約1/10の重量で、荷重制限のある工場屋根や既存ビル外壁にも設置できることが最大のメリットです。
課題は耐久性です。現状では数年〜10年程度の耐用年数とされていますが、封止技術の進化と回収・リサイクル体制の整備で改善が進んでいます。
2026年5月にはJPSC(日本ペロブスカイト太陽電池普及促進協議会)が設立されました。積水化学・パナソニック・アイシン・エネコートテクノロジーズ・リコーの5社が参画し、製品規格の統一やサプライチェーン構築を推進するもので、国内実用化に向けてさらなる加速が期待されています。
(関連記事)ペロブスカイト 開発企業5社で業界団体「JPSC」設立
【主要メーカーの最新動向(2026年6月時点)】
| 企業 | 製品・プロジェクト | 現状・計画 |
| 積水化学工業 | フィルム型 「SOLAFIL」 | 2026年3月27日に事業開始 2027年度に100MW量産ライン稼働 |
| カネカ | ペロブスカイト×シリコンタンデム型 | 研究段階で変換効率32.6%を達成 2028年度に住宅・ZEB向け製品の販売開始を予定 さいたま市と実証事業を実施中 |
| パナソニック | ガラス型ペロブスカイト(窓実装) | 2026年3月に窓への実装を公表 JPSCの設立メンバーとして普及推進に参画 |
CIGS(カルコパイライト)太陽電池|多くの先行実績あり

CIGSはシリコンの約100分の1の薄さで、影・曇り・高温にも強いのが特長です。
ペロブスカイトが耐久性の実証データを積み上げている段階であるのに対し、CIGSは「20年超の長期信頼性を実証済み」という大きなアドバンテージを持っています。
国内ではPXP社が2026年の本格量産を目指して体制整備を進めています。各地で実証事件が活発に進められており、東急不動産は京都の植物工場壁面にPXP製CIGSパネルを設置し、2026年7月から実証を開始予定です。
(関連記事)国内初! 東急 工場壁面にカルコパイライト太陽電池設置
2つの技術は「競合」ではなく「共進化」
本命は、ペロブスカイトとCIGS(カルコパイライト)を重ねた「タンデムセル」です。理論変換効率は30%を超え、カネカはすでに研究段階で32.6%を達成しています。
この2つの技術はいずれも日本が世界をリードしている分野であり、両方の強みを活かすことが日本のエネルギー安全保障と産業競争力の強化に直結するといえるでしょう。
BIPV導入へのフローチャート

状況別フローチャート
① 屋根に十分な面積・耐荷重がある場合
→ 従来型の太陽光+蓄電池を今すぐ導入するのが最善
(CIGS/ペロブスカイトは、価格と発電効率、耐久性の面で主流のシリコン太陽電池には現状では遠く及びません)
② 屋根に制限がある場合(荷重・面積・日照)
→ 壁面が広い → CIGS/ペロブスカイト壁面BIVP
→ 窓面積が大きい → ペロブスカイト窓ガラス一体型
③ 新築・大規模改修の予定がある場合
→ 設計段階からBIPVを統合するのが最もコスト効率が高い
(建築設備計画の初期段階でBIPVを組み込むことで、設置コストを大幅に低減できます)

導入に使える補助金

国はBIPVの普及を強力に後押ししています。
2026年度からは省エネ法定期報告対象事業者(約12,000事業者)に対し、太陽光設置目標の策定が義務付けられ、屋根設置が困難な場合にBIPVが有力な代替手段となります。
ただし現実的には、高額なコストを補填するために補助金事業に採択されることが前提となるでしょう。
| 制度(実施主体) | 対象 | 補助率 | 上限額 |
| 環境省 建材一体型太陽光 (窓一体型) | 窓と一体となった 太陽光発電設備 | 3/5(60%) | 5,000万円 |
| 環境省 建材一体型太陽光 (壁等一体型) | 壁等と一体となった 太陽光発電設備 | 1/2(50%) | 3,000万円 |
| 環境省 ペロブスカイト導入支援 | ペロブスカイト太陽電池の社会実装 | 2/3〜3/4 | 最大10億円 |
(参照)一般社団法人 環境技術促進協会
まとめ

米イランの停戦交渉は大詰めを迎えていますが、たとえホルムズ海峡が正常化しても「次の危機」は必ずやってきます。エネルギー安全保障は「いつか訪れる危機への備え」ではなく、今この瞬間の緊急課題です。
BIPVは、建物のあらゆる面を発電所に変えることで、屋根太陽光では届かなかった自家消費の限界を打ち破る技術です。
ペロブスカイトとCIGSという二枚看板はいずれも日本発・日本主導の技術であり、エネルギー安全保障と産業競争力の両方を同時に強化できる稀有な機会でもあります。補助金制度が整い、実用化が始まった今こそ、導入に向けた検討を開始する最適なタイミングといえるでしょう。
※本記事の数値は2026年6月24日時点の公表情報に基づいています。
情勢は急速に変化しているため、最新情報は各一次情報源をご参照ください。
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