ペロブスカイト太陽電池の現状と展望は?実用化事例についても解説!

薄いフィルム状の次世代型太陽電池であるペロブスカイト太陽電池」が注目を集めています。

ペロブスカイト太陽電池は発電効率が高い上に軽量で薄く曲げることも可能なため、今まで太陽光発電設備の設置が難しかった場所にも導入が可能になります。

本記事ではペロブスカイト太陽電池について、基本的知識からその優位性、本格的な実用化に向けた取り組みについて詳しく解説します。

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Index

ペロブスカイト太陽電池の基本原理

まずは現在使用されている太陽光電池の種類とそれぞれの特徴について整理します。

太陽光電池の種類

太陽光パネルは、大きく分けてシリコン系・化合物系・有機系に分類されます。

国立研究開発法人産業技術総合研究所HPより引用

多結晶シリコン太陽電池

多結晶シリコン太陽電池は現在最も広く普及している太陽電池技術です。一般的な太陽光パネルに採用されている技術で、変換効率は15〜18%を達成しており安定した性能と実績を持っています。

薄膜シリコン太陽電池

薄膜シリコン太陽電池は電卓や時計用の太陽電池として広く普及しています。
多結晶シリコン太陽電池と比較すると変換効率では劣りますが、大量生産が容易で、軽量かつフレキシブルなモジュールの製造が可能という特徴を持っています。

CIGS系太陽電池

銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)を使用した化合物系太陽電池です。薄膜でありながら多結晶シリコンに匹敵する性能を示し、製造時のエネルギー消費量も少ないことから、今後の普及が期待されています。
ただし、原料となるインジウムの希少性や製造コストの課題もあり、これらの解決が実用化への鍵となっています。

有機半導体太陽電池

2000年代以降、開発が本格化した新しい太陽電池技術です。有機物を含む固体半導体薄膜を使用し、寿命と変換効率の向上が現在の主要な課題となっています。
しかし、有機半導体太陽電池の技術革新は急速に進んでおり、その代表例が本記事で詳しく解説するペロブスカイト太陽電池です。

ペロブスカイト太陽電池の組成

ペロブスカイト太陽電池は、非常にユニークな材料構成を持っています
以下に挙げられる革新的な材料特性により、軽量で柔軟な太陽電池の製造が実現可能となっているのです。

特殊な結晶構造

ペロブスカイト太陽電池は、光吸収材料として「ペロブスカイト結晶構造」を持つことが特徴です。光を吸収する層は「ABX3型」と呼ばれる結晶構造を持つ有機‐無機ハイブリッド材料でできています。この構造が、太陽電池の性能を決める重要な要素となっています。

優れた光吸収性能

特殊な結晶構造により、太陽光の可視光領域で非常に効率的に光を吸収することができます。研究段階では、従来の多結晶シリコン太陽電池に匹敵する変換効率を達成しています。

超薄型設計が可能

光の吸収効率が従来のシリコンの約100倍も高いため、わずか数百ナノメートル(シリコン太陽電池の1000分の1程度)という極めて薄い層で十分な発電が可能です。

ペロブスカイト太陽電池の特徴

ペロブスカイト太陽電池の主な特徴として
軽量で柔軟性がありながら高いエネルギー変換効率を実現できることと、
量産段階に入れば従来よりも低コストで生産できる可能性があることが挙げられます。

優れた設計自由度

ペロブスカイト太陽電池は薄型で柔軟性があり、建築物の窓や曲面への設置など、従来の太陽電池では難しかった応用が可能となっています。
また、様々な色彩表現が可能なため建物の外壁やガラスと太陽光電池を一体化でき、デザイン性にも優れた外観を実現できるでしょう。

低コストでの製造

低温での製造が可能なため、量産化により生産コストを大幅に抑えることが期待されています。
ただし、実用化に向けては耐久性の向上や量産技術の確立が必要とされており、世界中の研究機関で活発な開発が進められています

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ペロブスカイト太陽電池の研究開発の現状

画像出典:知財図鑑

ペロブスカイト太陽電池の研究開発は、近年急速な進展を見せています。
しかし、普及には依然として課題が残っており、世界中の研究機関で課題解決に向けた取り組みが進められています。

変換効率の飛躍的向上

特に変換効率の向上において目覚ましい成果が報告されており、2009年にはわずか3.8%だった変換効率が、現在では単接合セルで25%以上、シリコンとのタンデム型で31%以上を達成するまでに至っています。
この変換効率の向上によって、より多くの電気エネルギーを生み出すことが可能になり、太陽電池としての実用可能性を大きく高めています

価格競争力

一方で、ペロブスカイト太陽電池は製造コストの面で将来的に大きな優位性を持つ可能性があります。
製造時に高温処理が不要であることや、原材料の使用量が少なくて済むことから、理論的な試算では将来的に製造コストを既存のシリコン太陽電池の半分以下に抑えられるとされています。
さらに、軽量という特性を活かして設置工事のコストも低減できる可能性があり、システム全体でのコスト競争力が期待されています。

ペロブスカイト太陽電池の課題

しかしながら、実用化に向けては依然として重要な課題が残されています。
現在の主な課題は、長期安定性と耐久性の向上です。
ペロブスカイト太陽電池は水分や酸素に曝露されると分解されやすく長期的な耐久性に懸念があり、湿気や熱に対する耐性の改善が重要な研究テーマとなっています。

この課題に対しては、新たな材料組成の開発や改良された封止技術の研究が精力的に進められています。
また、環境負荷の観点から、材料に含まれる鉛の使用も課題となっており、スズなどの代替材料を用いた研究も並行して行われています。
ただし、現状では鉛フリーペロブスカイト太陽電池の変換効率は、鉛系のものには及んでいません。

ペロブスカイト太陽電池に関する日本の優位性

画像出典:EnergyShift

日本は、ペロブスカイト太陽電池の研究開発において、基礎研究と製造技術の両面で
世界をリードする立場にあります。

基礎研究における優位性

ペロブスカイト太陽電池の分野において、日本は重要な基礎研究の基盤を築いてきました。
特に、桐蔭横浜大学の宮坂教授による先駆的な研究成果は、この分野の発展に大きく貢献しています。
現在では、NEDOのプロジェクトを中心に産学官が連携した研究開発が活発に展開されており、
物質・材料研究機構(NIMS)や産業技術総合研究所(AIST)などの研究機関では、新材料開発や劣化メカニズムの解明など、基礎的な研究において重要な成果を上げ続けています。

製造技術における強み

製造技術の面でも、日本は独自の優位性を持っています。
ペロブスカイト太陽電池の主要原料であるヨウ素において、日本はチリに次ぐ世界第2位の生産国であり、世界シェアの29%を占めています。

さらに注目すべきは、推定埋蔵量では世界の78%のシェアを持っていることです。
この資源的優位性により、材料調達における国際情勢や為替の影響を最小限に抑えることが可能です。

また、日本企業が得意とするスロットダイコーティングインクジェットなどの印刷技術を活用した大面積製造プロセスの開発も、世界的に注目を集めています。
これらの技術は、大面積デバイスの均一製造を可能にするだけでなく、製造コストの大幅な削減にも貢献することが期待されています。

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ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた取り組み

画像出典:NEDO

ペロブスカイト太陽電池は、その独自の特性を活かした実用化に向けて着実な進展を見せています。
特に国土が狭く太陽光パネルの設置面積が限られている日本では、国土の効率的な活用という観点からペロブスカイト太陽電池の実用化に特に力を入れています。

近年は特に建築統合型太陽光発電(BIPV:Building-integrated photovoltaics)分野での取り組みが進んでいます。

軽量で柔軟性があるという特徴を活かし、以下のような場所への設置が可能となります。

  • 従来の太陽電池では荷重制限により設置が困難だった屋根
  • ビルの壁面や窓ガラス
  • 曲面を持つ建築物の表面

これらの取り組みにより、ペロブスカイト太陽電池の商業化と普及が加速することが大きく期待されています。

太陽光発電

ペロブスカイト太陽電池の活用事例

画像出典:TELESCOPE magazine

ペロブスカイト太陽電池の実証実験や活用事例について、最新の情報をいくつかご紹介します。

日本初!廃校のプールで浮体式ペロブスカイト太陽電池の実証実験がスタート

茨城県つくば市の廃校プールを活用した浮体式ペロブスカイト太陽電池の実証実験が2024年4月より開始されました。
この実験では、水上設置型のペロブスカイト太陽電池モジュールの性能評価や耐久性テストが行われ、
遊休施設の有効活用と再生可能エネルギーの普及促進を目指しています。

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このプロジェクトでは、ペロブスカイト太陽電池の量産化技術の開発を進めるとともに、従来の太陽電池では設置が困難だった建築物(耐荷重の小さい屋根や高層ビルの壁面など)への実証実験を行います。

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産業技術総合研究所(産総研)は、世界初となるペロブスカイト太陽電池の自動セル作製システムの開発に成功しました。このシステムは、基板電極の洗浄から成膜プロセス、そしてセル分離に至るまでの一連の製造工程を完全に自動化しています。従来の手作業による製造方法と比較して、作業効率が10倍以上向上することが期待されています。https://solartechlife.jp/news20241009/

ペロブスカイトのインクジェット装置が販売開始!

長野県塩尻市のマイクロジェット社が、ペロブスカイト太陽電池試作用インクジェット塗布装置「PerovsJet」の販売を開始しました。
この装置は、従来のインクジェットプリンター技術を応用し、ペロブスカイト材料を液体の形で均一に塗布することができます。インクの代わりにペロブスカイトの液材料をノズルから噴射することで、均一なペロブスカイト層を形成できる革新的な技術です。
現在は企業向けの試作用として提供されていますが、将来的には一般ユーザーでも太陽光発電パーツを簡単に製造できる可能性を秘めています。

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RICHO ペロブスカイトを搭載した庭園灯の実証実験スタート

リコー社が東京都の「ペロブスカイト太陽電池の早期実用化」助成事業に採択され、ペロブスカイト太陽電池を搭載した庭園灯の実証実験を開始しました。
東京都大田区の馬込第三小学校と神奈川県厚木市役所本庁舎に設置された庭園灯で、実際の使用環境下での性能検証が行われています。
この取り組みは、ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた重要なステップとなり、太陽光発電の新たな応用可能性を示すものとして注目されています。

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新幹線防音壁にペロブスカイト設置!積水化学とJR東海が共同実証へ

積水化学工業とJR東海は、東海道新幹線の防音壁にペロブスカイト太陽電池を設置する共同実証実験を発表しました。
新幹線沿線の防音壁は日当たりが良く、薄型で軽量、柔軟性のあるフィルム型ペロブスカイト太陽電池の設置に適しています。
発電した電力は駅施設での利用を予定しており、この取り組みは既存インフラを活用した新しい太陽光発電の可能性を示しています。

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ペロブスカイト太陽電池の今後の展望

画像出典:日経BP

本記事で解説したように、ペロブスカイト太陽電池の実用化は着実に進展しています。

大手企業から研究機関まで様々な組織が技術開発に参画し、それぞれの専門性を活かした革新的なソリューションを提供していることが、この分野が急速に発展している要因です。
今後は、これらの実証実験で得られたデータや知見を活かし、さらなる技術改良と実用化の促進が期待されます。
ペロブスカイト太陽電池は、持続可能なエネルギー社会の実現に向けた重要な技術としてその役割を一層拡大していくでしょう。

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