高い断熱性能と太陽光発電などによる再生可能エネルギーの導入で、省エネルギー性能を従来よりも大幅に高めた住宅を「ZEH(ゼッチ)」と呼び、国の補助金対象となることを先日のコラムで解説しました。
今回は、住宅以外の商業施設や工場、オフィスビルなどで推進されている「ZEB(ゼブ)」について、その定義と必要とされる理由について詳しく解説します。
補助率の高い補助金を活用して省エネ性能に非常に優れた業務施設を建築するチャンスですので、企業の経営者や管理部門の方はぜひ参考にしてみてください。
ZEBの定義と基本概念
ZEB(ゼブ)とは、「Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」の略称です。
分かりやすく定義すると「再エネを導入して建物で消費する年間のエネルギー収支をゼロ以下にすること」を目指した建物のことです。
具体的には、次の3段階のプロセスを経て建物のZEB化を検討します。
- 断熱材の高性能化や窓ガラスにLow-Eペアガラスを採用するなどして建物の断熱性能を強化し、外部環境(暑い・寒い)が室内に及ぼす影響を最小限にする
- エネルギー効率に優れた空調や換気設備、LED照明などを導入して設備の省エネ化を図る
- 屋根に太陽光パネルを設置するなどして、建物で使用するエネルギーを自らつくり出し消費する(消費エネルギーの再エネ化・電線系統からの電力をできる限り購入しない)
設計審査を経てZEB認定された建物には補助金が用意されており、国が積極的に建物のZEB化を推進しています。
省エネの達成度合いに応じてランク付けがされ、それに応じて補助率が変わる仕組みとなっています。
ZEBが必要とされる理由
なぜ建物のZEH化・ZEB化が推進されているのでしょうか。その経緯と理由についてまとめてみました。
ZEBが必要とされる理由①温室効果ガスの増加と地球温暖化
温室効果ガスの増加
ZEBが必要とされる第一の理由は地球温暖化への対策です。
地球温暖化の原因となる温室効果ガスには、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)フロン類などがあり、これらは主に化石燃料の使用によって発生します。
国内発電量の7割以上を占めている(※)火力発電所では、石炭や石油、天然ガスなどの化石燃料を大量に使用します。その結果、系統電力を使用すればするほど、大量のCO2を排出することになります。
温室効果ガス削減のためには、建物の省エネルギー化を図るとともに太陽光発電などの再生可能エネルギーで化石燃料を代替することが重要なのです。
※ 参照:資源エネルギー庁HP
気候変動枠組条約締約国会議
2021年にイギリスのグラスゴーで開催された「第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)」では、「世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑える努力を追求する」という国際合意が形成されました。
この合意は、パリ協定(COP21)の「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という目標をさらに強化したものです。
この目標の実現に向けて世界各国が取組を進めており、現在では120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」という目標を掲げています。
カーボンニュートラル実現のためには、化石燃料を使用しない太陽光や風力などの再生可能エネルギーにシフトしていく必要があるのです。
ZEBが必要とされる理由②2050年カーボンニュートラル宣言
日本政府は2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しました。
これは、2050年までにCO2に代表される温室効果ガスの排出量を差し引きでゼロにするという取り組みです。
これに加え、2021年4月には「2030年に2013年度の水準から排出量を46%削減することを目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続ける」という方針を示しています。民間企業にもその方針に追随した取り組みが今後さらに求められていくことになるでしょう。
グリーン成長戦略
2021年6月に、2050年のカーボンニュートラル達成に向けて経済産業省が主体となった「グリーン成長戦略」という政策が発表されています。
グリーン成長戦略では、環境負荷の軽減に向けた技術イノベーションが期待される14分野が指定されており、建築分野もそのうちのひとつです。
建築分野の政策は、住宅やビルの省エネ化や電力マネジメントシステムの導入による、電気料金の削減やレジリエンスの向上がその骨子であり、建物のZEH化・ZEB化はその重要な役割を担うことが期待されています。
GX実行会議
2022年7月、内閣官房により「GX(※)実行会議」が設置されました。
GX実行会議では、脱炭素の取組みを進める上での前提となるエネルギー安定供給の再構築に向けて必要な方策と、日本の経済・社会・産業構造を脱炭素へと転換していくためのロードマップを議論しています。
2022年12月の第5回会議では今後10年のロードマップが示され、GX分野において今後10年間で150兆円を超える官民投資を促すことや、2028年度を目途に「炭素に対する賦課金」を導入する案が発表されています。
とくに炭素に関する賦課金は、企業活動に大きな影響をおよぼします。火力発電による電力を使用すればするほどCO2を排出したとみなされ、ペナルティ的に負担金が課されることになってしまいます。
※ GX・・・「グリーントランスフォーメーション(Green transformation)」の略語。2050年カーボンニュートラルの達成に向けた取組を、制約やコストではなく社会変革と経済の成長の機会ととらえる取り組みのこと。
ZEBが必要とされる理由③今後義務化の見通し
住宅や業務施設の建設やその後の改修・運用から解体までを含めると、建築分野でのCO2排出量は、国内全体のCO2排出量の約3分の1を超えると推計(※1)されています。
そのおよそ半分が業務施設に関連して発生しており、特に運用段階のエネルギー消費による排出量の比率が高いことが特徴です。
※1 国土交通省における省エネ対策の概要 p.7
その改善策として、建築物の新築や改修時の確認申請の時に国が定めている「省エネ基準」を、2030年までにZEB水準に引き上げる動きがあり、これはGX実行会議のロードマップ(※2)にも明記されています。
これにより、2030年以降はZEH/ZEB認定された建物しか建築できない可能性があります。それを踏まえると、補助金が活用できる今のうちに検討を進めることが得策でしょう。
※2 GX実現に向けた基本方針(案) 参考資料 P.11
ZEBの種類とエネルギー計算方法
建物のZEB化を進めるにあたっての使用エネルギーの計算方法と、ZEBの性能別ランク付けについて解説します。
ZEBのエネルギー収支
一次エネルギー消費量
ZEBの計算では、次の5つの分野に使用される「一次エネルギー消費量」の推測値を算出します。
- 空調
- 換気
- 照明
- 給湯
- 昇降機(エレベーターやエスカレーター)
冷蔵冷凍設備や電化製品、生産機械などを動かすためのエネルギーは除外されることにご注意ください。
BPIとBEI
省エネルギー計算には、BPIとBEIの2つの重要な指標があります。
建物の規模別・用途別に定められた標準的な性能を、BPI=1.0 BEI=1.0で表します。これを「省エネ基準」と呼び、現在国が求めている最低限の性能値であることを示します。
BPIは建物の断熱性を示す指標で、ZEBの場合は1.0以下であることが必須条件です。
BEIは建物のエネルギー消費量を示す指標で、BEI=1.0の場合に使用するエネルギー量を「基準一次エネルギー消費量」と定義します。ZEBと認定されるためには、BEI=0.5以下であることが必要です。
再生可能エネルギーの導入
建物の高断熱化と設備の省エネ化で大幅の一次エネルギー消費量を削減した上で、太陽光発電などを利用して再生可能エネルギーの導入を増やし、理論上一次エネルギー消費量を「実質ゼロ」にするのがZEBの基本的な考え方です。
再生可能エネルギーには、建物の屋根や敷地に設置した太陽光パネルで発電した電気を利用すること(「自家消費」といいます)を想定しており、FIT・FIP制度などを利用した売電目的には利用できないことにご留意ください。
ZEBの種類
ZEBには、その達成度合いに応じて次の4つのランクがあり、補助金を活用する際にはランクに応じて補助率が変わります。
ZEB(ゼブ)
・一次エネルギー消費量BEI=0.5以下
・再生可能エネルギーを導入するとBEIがマイナスになる(100%以上の一次エネルギー消費量削減)
Nearly ZEB(ニアリー・ゼブ)
・一次エネルギー消費量BEI=0.5以下
・再生可能エネルギーを導入するとBEIが0.25以下(75%以上の一次エネルギー消費量削減)
ZEB Ready(ゼブ・レディー)
・一次エネルギー消費量BEI=0.5以下(50%以上の一次エネルギー消費量削減)
ZEB Oriented(ゼブ・オリエンテッド)
・延べ面積が10,000㎡以上の建物
・事務所等、学校等、工場等は40%以上の一次エネルギー消費量削減
・ホテル等、病院等、百貨店等、飲食店等、集会所等は30%以上の一次エネルギー消費量削減
・未評価技術を導入
建物のZEB化に活用できる補助金に関しては
次回記事にて詳しく解説しますのでご期待ください!
まとめ
今回はZEBの定義と必要とされる理由について、詳しく解説しました。
地球温暖化の原因となるCO2の排出量を削減するためには、建物の省エネ化と太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入が重要な役割を担っています。
社会的な影響が大きい業務用の施設は、建物のZEB化によってCO2を削減することが大いに期待されています。
それだけでなく、今後はCO2の排出量削減が義務化されることも予測されています。
ZEBに関する知識を持ち、新築や改築の際には補助金制度を上手に活用してZEB化を推進することが
今後の企業の安定と成長をもたらすでしょう。
本記事を参考にしていただき、建物のZEB化に取り組んでみてはいかがでしょうか。
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