ペロブスカイト太陽電池の生みの親|宮坂教授の偉業とは?実用化で加速するエネルギー革命!

フィルム状の薄くて柔軟な次世代型の太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」が注目を集めています。開発者である桐蔭横浜大学の宮坂 力(みやさか つとむ)教授がノーベル賞候補になっていることを報道で知り、興味をお持ちの方も多いのではないでしょうか?

ペロブスカイト太陽電池は極めて軽量ゆえに、設置場所の制約を受けにくいのが魅力の国内初の革新技術です。日本では平地が少なく、太陽光発電の設置適地が限られているという課題がありましたが、ペロブスカイト太陽電池は建物の屋根や壁面といった未利用スペースを有効活用できるため、国内の再生可能エネルギー導入量を大幅に引き上げる切り札として期待されています

2009年に宮坂教授が世界に初めて発表したこのペロブスカイト太陽電池は、現在多くの実証実験と技術開発が進められており、商業化が目前に迫っています。わずか15年で効率を爆発的に向上させたこの技術を、宮坂教授のストーリーを通じて紐解きましょう。

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宮坂教授が発明したペロブスカイト太陽電池の革新性

ペロブスカイト太陽電池は、従来のシリコン結晶型太陽電池の性能を凌駕する革新的な発明です。

鉱物「ペロブスカイト」結晶構造を光吸収層に用いることが特徴で、製造コストを劇的に抑えられる上に柔軟性が高いため、ウェアラブルデバイスや曲面への適用が可能になります。

宮坂 力教授の経歴|ペロブスカイト太陽電池を世界に広めた先駆者

桐蔭横浜大学の宮坂力教授は、ペロブスカイト太陽電池の生みの親として太陽光発電史に名を刻んでいます。近年は毎年のようにノーベル賞候補に名を連ねており、このことからもこの技術がいかに革新的かが推し量れるでしょう。

画像出典:EnergyShift

1953年生まれの宮坂教授は、1981年に東京大学大学院工学系研究科を修了して工学博士を取得後、富士フイルムで20年間「光電変換技術」の開発に携わりました。同社において染料増感太陽電池の基礎を築いた後に2001年に桐蔭横浜大学へ移籍し、有機太陽電池の研究を主導現在は桐蔭横浜大学特任教授として、MIYASAKA研究室を率いています

宮坂教授の功績は輝かしく、ペロブスカイト太陽電池という新しい研究分野を開拓したことに加えて、実用化に向けて重要な一歩を踏み出したことが評価されています。これまでに「朝日賞」「日本学士院賞」を受賞しており、2025年には権威ある国際学術賞である「NIMS賞」をHenry J. Snaith教授、Nam-Gyu Park教授とともに受賞しています。

ペロブスカイト太陽電池の先駆者として宮坂教授の情熱はいまだ衰えず、日々研究を続け新たな技術革新を生み出し続けています。

【宮坂力教授の主な受賞歴】

受賞した賞
2008年GSC(グリーン・サステイナブル ケミストリー)賞
2017年クラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞(旧トムソン・ロイター)
2017年日本化学会賞
2018年応用物理学会業績賞
2020年山崎貞一賞
2020年市村学術賞 功績賞
2022年英国ランク賞 (Rank Prize)
2023年朝日賞
2024年日本学士院賞
2024年神奈川文化賞
2025年NIMS賞

今後期待されるペロブスカイト太陽電池の展開

2009年の初報告から10年で、ペロブスカイト太陽電池のエネルギー変換効率はシリコン太陽電池を上回る25%超えを果たしています。低コストと高い変換効率で環境負荷の低いペロブスカイト太陽電池は、再生可能エネルギーの未来を照らすゲームチェンジャーになる可能性が高いとされています。

2025年は「ペロブスカイト太陽電池元年」と位置付けられ、技術開発が海外も含めて急速に進行中です。軽量柔軟なペロブスカイト太陽電池は、建物統合型PV(BIPV)や次世代ウェアラブル衣料電気自動車の車体発電などの技術革新に不可欠な要素であり、宮坂教授の発明が未来を照らす日がすぐそこまで来ています。

安定性向上と長耐用年数の実現に向け、京大が鉛フリーの錫(スズ)ペロブスカイト太陽電池薄膜作製法を開発したり、リコーがインクジェット方式で低コスト生産できる新技術を発表しています。積水化学工業は量産化新会社を設立し、2030年までの製造ライン構築を目指しています。また、エネコートテクノロジーズがNEDO基金に採択されるなど、大型モジュールの実用化と量産化への体制構築が加速しています。

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ペロブスカイト太陽電池の特性と発展可能性

ペロブスカイト太陽電池はその特性から、従来のシリコン系太陽電池では設置が難しかった場所への導入が可能で、膨大な設置ポテンシャルを持っているとされています。「どこにでも貼れる太陽電池」として、都市部を中心に新たな市場を切り開く可能性を秘めています。

設置場所の常識を変える特性

ペロブスカイト太陽電池のポテンシャルは、主に以下の3つの特性に由来します。

軽量・柔軟性

画像出典:TELESCOPE magazine

ペロブスカイト太陽電池は従来のガラスで覆われた太陽電池に比べて圧倒的に軽く、フィルム状に製造できるため曲面にも設置できます。これにより、耐荷重が低い工場の屋根体育館ビルの壁面や窓、さらには車のボディ衣服といった多様な場所への展開が可能です。

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低照度での発電効率

曇りや雨の日、そして室内光のような弱い光でも効率的に発電できるため、日当たりの悪い場所や屋内での活用が期待されます。IoT機器の電源など、新たな用途も考えられています。

低コスト・省資源

印刷技術を応用した製造が可能で、レアメタルを必要としないため、低コストでの量産が見込まれます。

具体的な設置場所の例

これらの特性を活かし、以下のような場所での実証実験や導入検討が進んでいます。

設置場所具体例
建築物耐荷重の低い屋根(倉庫、工場、体育館など)
壁面・窓ガラス高層ビルや住宅の
(建材一体型太陽電池:BIPV)
曲面の屋根関西万博のバスターミナルの屋根で実証実験
通信インフラ通信基地局(ポールに巻き付けて設置)
自動車・ドローン車体や翼に搭載し、航続距離を延長
屋内IoTセンサースマートデバイスの電源
衣服・ユニフォーム関西万博ではスタッフのユニフォームに搭載

市場のポテンシャルと将来性

ペロブスカイト太陽電池の市場規模は今後の急速な拡大が予測されており、2040年には世界市場が4兆円近くにも達すると予測されています。

日本政府もこの技術を重要視しており、GW(ギガワット)級の量産体制構築を目指す方針を示しています。

ペロブスカイト太陽電池には、これまで太陽光パネルが設置できなかった下記のような箇所に対して大きな設置ポテンシャルがあるとされています。

  • 耐荷重の小さい屋根

大規模な工場や倉庫、体育館など、構造上の問題で重い太陽光パネルを設置できなかった屋根

  • 建物の壁面

都市部のビルなど、屋根面積が限られる場所でも壁面を有効活用

これらを合計すると、現在日本に導入されている太陽光発電の総量(約70GW)の1.5〜2倍にもなるとされており、最大で140GWもの巨大な市場が生まれることになります。

実用化に向けた課題

大きなポテンシャルを持つ一方で、本格的な普及にはいくつかの課題も残されています。

  • 耐久性の向上

酸素や水分、紫外線に弱い性質があり、寿命が従来のシリコン系太陽電池(20〜30年)に比べて短い(5〜10年程度)とされています。保護膜技術や封止技術の開発により、耐久性の向上が急がれています。

  • 大面積化

大面積になると発電効率が落ちる傾向があり、大型化と性能維持の両立が課題です。

  • 鉛の使用

高い発電効率を持つ材料に有害物質である鉛が含まれており、環境への影響が懸念されています。鉛を使わない材料の研究も進められています。

これらの課題解決に向け国内外で研究開発と各種の実証実験が活発に行われており、ペロブスカイト太陽電池の実用化市場の本格的な立ち上げ目前に迫っています

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更に進むペロブスカイト太陽電池の実証実験

実用化に向けた課題を解決するべく、国内では大規模な実証実験が積極的に進められています。

横浜港大さん橋でペロブスカイト太陽電池による実証開始

マクニカは、横浜港大さん橋のデッキ上で、ペロブスカイト太陽電池の実証事業を開始しました。この取り組みでは、新たに開発されたユニットを異なる工法で設置し、過酷な環境と通常の環境下での耐久性発電能力を比較検証します。

期間は今月から来年2月28日までを予定しており、ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた重要なデータ収集が期待されています。

内部リンク

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参照:マクニカHP

ペロブスカイトの積雪寒冷地耐久性を検証

北海道電力は、三菱HCキャピタルエネコートテクノロジーズと共同でペロブスカイト太陽電池の実証実験を開始しました。この実証実験の目的は、発電特性の把握と積雪寒冷地に適応する施工方法のノウハウ習得、そしてペロブスカイト太陽電池の社会実装を推進することです。

日本の多様な気候特性を考慮すると、この実証実験は今後の寒冷地における利用発展に大きく貢献すると期待されています。

内部リンク

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参照:北海道電力HP

神戸空港でペロブスカイト太陽電池の耐強風実証実験を開始

積水化学工業積水ソーラーフィルムは、神戸市・関西エアポート神戸と連携し、神戸空港の制限区域内緑地帯にフィルム型ペロブスカイト太陽電池約50㎡を設置する実証実験を2025年6月から2027年3月まで実施すると発表しました。

この実証では防草シート上にペロブスカイト太陽電池を敷設し、空港特有の強風環境を想定した安全性と耐風性能耐久性・発電効率を検証します。

積水化学 神戸空港でペロブスカイトの新たな実証へ

参照:積水化学工業HP

積水化学工業株式会社
神戸空港でフィルム型ペロブスカイト太陽電池の実証実験を開始 | 積水化学工業株式会社 積水化学工業株式会社のニュース一覧です。プレスリリースやイベント情報、製品やIR、サステナビリティに関するニュースを掲載しています。

ペロブスカイト太陽電池を内窓に用いた実装検証を開始

YKK APは、関電工との提携で建材一体型太陽光発電を開発し、テレコムセンタービルで実装検証を開始しました。この検証ではフィルム型ペロブスカイト太陽電池を用いた内窓(BIPV内窓)の既存オフィスビルへの取り付け方法の実証と発電データの取得、反射光効果の影響などを目的としています。

参照:YKK AP HP

YKK AP グローバルウェブサイト
臨海副都心の既存オフィスビル 「テレコムセンタービル」でフィルム型ペロブスカイト太陽電池(次世代型ソ... 臨海副都心の既存オフィスビル 「テレコムセンタービル」でフィルム型ペロブスカイト太陽電池(次世代型ソーラーセル)を内窓に用いた建材一体型太陽光発電の実装検証を開...

福岡市有施設の屋根に設置し避難所機能の強化

積水化学工業は、福岡市の次世代型太陽電池率先導入事業に参画しています。この事業は、脱炭素社会の実現に向けた新技術導入の一環として、フィルム型ペロブスカイト太陽電池の全国に先駆けた導入を目指すものです。

福岡市立香椎浜小学校体育館の屋根に約200㎡のペロブスカイト太陽電池を設置し、蓄電池と併設して避難所の機能を強化します。都市におけるエネルギー自給自足の新しいモデルを構築し、将来的な導入拡大に繋げることを目的としています。

参照:積水化学工業HP

積水化学工業株式会社
福岡市「次世代型太陽電池率先導入事業」への参画について | 積水化学工業株式会社 積水化学工業株式会社のニュース一覧です。プレスリリースやイベント情報、製品やIR、サステナビリティに関するニュースを掲載しています。

まとめ

画像出典:NEDO

2025年は「ペロブスカイト太陽電池元年」と位置付けられ、実用化に向けた課題解決のため国内外で研究開発と実証実験が活発に進められています。

2040年には世界市場が4兆円近くに達すると予測されているペロブスカイト太陽電池は、持続可能な社会の実現に貢献する「ゲームチェンジャー」となるものです。

ペロブスカイト太陽電池の一般実用化に向けて、今後も注視していきましょう。

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