ビルの壁やドーム型の屋根が、まるごと発電所に変わる。そんな未来を可能にする新しい技術が「カルコパイライト太陽電池」です。
従来の硬くて重いガラスの太陽光パネルは、建物に設置できる場所が限られていました。しかし、軽くて曲げられるカルコパイライト太陽電池なら、これまで諦めていた場所にも設置できます。
「ビルの壁を発電所にしたい」
「カーブした屋根にもパネルを設置したい」
こうした願いを叶える次世代の太陽電池として、カルコパイライト太陽電池は最近話題の「ペロブスカイト太陽電池」と並んで注目されています。性能は同等レベルでありながら、実用化という点ではカルコパイライト太陽電池が一歩リードしているのです。
この記事では、そんなカルコパイライト太陽電池の基礎知識からペロブスカイト太陽電池との違い、そして最新の研究開発の動向まで、専門的な内容を誰にでも分かりやすく解説します。
カルコパイライト(CIGS/CIS)太陽電池とは?
カルコパイライト太陽電池は薄膜型太陽電池の一種です。まずはその特徴と歴史を見ていきましょう。
カルコパイライト太陽電池の組成

カルコパイライト太陽電池は、銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)を主成分とする化合物半導体を光吸収層に用いた太陽電池で、これらの元素の頭文字を取って「CIGS」や「CIS」という略称で呼ばれています。
従来の主流であるシリコン系太陽電池に比べて、光吸収層を数マイクロメートル(µm)という薄さにできるのが最大の特徴で、これまでの太陽電池にはなかった数々のメリットを生み出します。
カルコパイライト太陽電池開発の歴史
カルコパイライト太陽電池の研究は、1970年代に米国のベル研究所でCISが太陽電池材料として有望であることが見出されたことから本格的に始まりました。
1980年代にはボーイング社が「変換効率10%の壁」を突破し、実用化への期待が高まります。その後、インジウムの一部をガリウム(Ga)に置き換えたCIGS構造が登場し、1990年代にはさらなる高効率化が進みました。
2000年代以降は、日本のソーラーフロンティア社をはじめとする企業が量産化に成功し、そのユニークな特性を活かした市場を形成するに至っています。
カルコパイライト太陽電池の3つのメリット
なぜ今、カルコパイライト太陽電池が建築業界や新規事業開発の分野で注目されているのでしょうか。その強みは主に3つあります。
デザインの自由度が高い

カルコパイライト太陽電池は光吸収層が非常に薄いため、ガラスや樹脂フィルムといった様々な素材の上に形成できます。これにより、先述のようなBIPV(建材一体型太陽電池)やフィルム状で曲面にも自由な形状で貼り付けられる薄膜太陽電池が既に実用化されています。
過酷な環境でも性能を維持する耐久性
カルコパイライト太陽電池は、放射線に対する耐性が高いことが知られており、宇宙空間など特殊で過酷な環境での利用も期待されています。
また、近年の研究では、放射線によるダメージを受けても、熱や光によって性能が回復する現象も報告されており、長期的な信頼性の高さが強みです。
次世代技術との連携による将来性
近年、急速に開発が進む「ペロブスカイト太陽電池」とカルコパイライトを組み合わせたタンデム型太陽電池の研究が活発です。2つを重ねることで、より幅広い波長の光を電気に変換できるようになり、さらなる高効率化が期待されています。
2025年には24.6%という高い変換効率が得られたことが報告されており、軽量性と高出力を両立する技術として注目されています。
カルコパイライト太陽電池の活用シーン
建材としての意匠性と発電設備としての実用性の両立を求める案件で、カルコパイライト太陽電池は存在感を増しています。ここでは代表的な活用シーンをご紹介します。
BIPV(建材一体型太陽電池)
BIPVは、ビルの外装パネル、手すり、ひさし、カーテンウォールのガラスに太陽電池を一体化する技術です。ガラスと一体化させることで、建物の外観を損なわずにデザインの選択肢を広げることができます。
既存屋根への後付け
カルコパイライトの軽量性により、既存屋根の耐荷重に制約があっても、屋根材を差し替えずに追従性の高いモジュールを設置し、発電面積を確保できます。さらに、曲面や不陸のある下地にも対応できるため、短時間で効率的な施工が可能です。

宇宙・特殊用途く領域
宇宙分野では、打ち上げコストを抑えるため、軽量で比出力の高いカルコパイライト太陽電池が評価されており、過酷な温度や放射線への耐性も選定理由の一つです。
地上でも、災害時の可搬電源や観測機器などの独立電源として活用され、配線が難しい場所での発電を可能にします。

カルコパイライトとペロブスカイトはどちらが優れている?

カルコパイライト太陽電池は、「次世代太陽電池」として注目を集める「ペロブスカイト太陽電池」と良く比較されます。それぞれの特徴を下表にまとめました。
| 観点 | カルコパイライト | ペロブスカイト |
| 技術成熟度 | BIPVやフレキシブル製品として商用化・実績多数 | 変換効率は高いが、長期安定性の確立が課題 |
| 原材料リスク | インジウム・ガリウムの資源リスクに留意が必要 | 主原料の鉛(Pb)の適切な管理・リサイクルが重要 |
| 将来性 | ペロブスカイトとのタンデム化でさらなる高性能化へ | シリコンやCIGSとのハイブリッド化で実用化を加速 |
技術の成熟度や耐久性の実績では、現時点ではペロブスカイト太陽電池よりもカルコパイライト太陽電池に分があると言えるでしょう。BIPVや軽量屋根など信頼性と実績が求められる用途にもカルコパイライト太陽電池が適しています。
一方、ペロブスカイト太陽電池は将来的なポテンシャルが非常に高く、カルコパイライト太陽電池と組み合わせることで互いの長所を活かす補完関係にあります。
ペロブスカイト太陽電池については、こちらの記事で詳しく解説しています。
ペロブスカイト太陽電池の現状と展望は?実用化事例についても解説!

カルコパイライト太陽電池の市場動向と今後の見通し
カルコパイライト太陽電池市場の現在の状況と、今後の見通しを解説します。

市場での立ち位置
太陽光発電市場全体では、依然として結晶シリコン系が主流です。薄膜太陽電池全体のシェアは約2%ほどで、その中でもCIGSは、BIPVや軽量性が求められる特殊な用途といった高付加価値市場で強みを発揮しています。
国内外の企業動向
日本でカルコパイライト太陽電池を生産していたソーラーフロンティア社は2022年に量産を終了しましたが、欧州のAVANCIS社や米国のMiaSolé社などは、それぞれBIPV分野や軽量フレキシブル分野で事業を継続しています。
国内ではソーラーフロンティアから独立した技術者が立ち上げたPXP社が積極的に実証実験を行い、本格量産化に向けて着々と実績を積み上げており注目を集めています。
技術開発のトレンド
研究レベルでは単体のセルで23.64%、ペロブスカイトと組み合わせたタンデム型では24.6%と、変換効率は着実に向上しています。特に軽量性と高出力が求められる分野での存在感は増していくでしょう。
ニッチ分野での優位性
大規模な発電所ではコストパフォーマンスに優れたシリコン系が引き続き中心となります。一方で、デザイン性、重量、曲面への追従性といった建材としての要件が重視される分野では、カルコパイライト太陽電池の優位性が高まります。
量産化をさらに進めてコスト優位性を生み出すためには、原材料の安定供給とリサイクル、そして標準化が鍵となります。
カルコパイライト太陽電池の課題

多くのメリットがある一方で、以下の点も理解しておく必要があります。
希少な原材料への依存
主な材料であるインジウム(In)やガリウム(Ga)は、産出地域が偏在しており、地政学的なリスクや価格変動の影響を受けやすい「重要鉱物」に指定されています。安定供給のためのリサイクル技術や、使用量を削減する研究が重要な課題です。
製造プロセスの複雑さ
真空環境下での成膜など、製造プロセスがシリコン系に比べて複雑で、設備投資が大きくなる傾向があります。そのため、超大量生産によるコスト競争では、スケールメリットを持つシリコン系に軍配が上がることがあります。

国内で加速するカルコパイライト太陽電池実証実験

国内ではカルコパイライト太陽電池の実用化に向けた大規模な実証実験が活発化しています。これらの動きは、カルコパイライト太陽電池が得意とするBIPVや特殊な設置環境において、有力な選択肢となり得ることを示しています。
東京ガス株式会社
神奈川県の同社施設にて、フィルム型カルコパイライト太陽電池を設置し、発電性能や耐久性の検証を開始しました。
波型のスレート屋根やガスタンクの曲面にも設置できるフレキシブル性を生かし、既存施設への展開を目指しています。
参照:東京ガス HP
https://www.tokyo-gas.co.jp/news/press/20250716-01.html
日揮ホールディングス株式会社

同社ではエネルギー分野での豊富な知見を活かし、カルコパイライト太陽電池の社会実装を目指しています。
横浜市内の同社施設にて、カルコパイライト太陽電池の技術開発を手がけるPXP社と共同で、耐久性などを検証する実証実験を開始しました。遮熱シートとの組み合わせで既設の工場屋根の内部環境の改善にもつながる可能性があります。
参照:日揮ホールディングス HP
https://www.jgc.com/jp/news/assets/pdf/20250515_11j.pdf
サントリーホールディングス株式会社
サントリーとPXPが共同で、カルコパイライト太陽電池を搭載した自動販売機の実証実験を開始しました。
この自販機は2025年7月から1年間、相模原麻溝公園で運用され、軽量で曲げやすいパネルを自販機に直接設置することで発電量の向上を目指します。将来は無電源地や災害時電源としての活用も検討されています。

参照:サントリーホールディングス HP
https://www.suntory.co.jp/news/article/14851.html

まとめ|カルコパイライト太陽電池は「今使える」未来の技術

カルコパイライト(CIGS/CIS)太陽電池は、現在の主流であるシリコン系とは異なる土俵でその価値を発揮します。
- デザイン性が求められる建築物(BIPV)
- 重量制限のある既存の屋根
- 曲面など特殊な形状への設置
これらの領域において、カルコパイライト太陽電池は非常に強力な選択肢となります。
原材料の課題は残るものの、その設計自由度の高さと信頼性は、これからの脱炭素社会における都市のあり方や建築デザインの可能性を大きく広げる技術と言えるでしょう。
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